黒紋付・黒留袖
最高の礼装といわれる、五つ紋の黒紋付。現在は、黒留袖、喪服、男性の黒紋付羽織袴がそれにあたるとされています。(ここでは色留袖は外します) しかし、黒留袖と喪服は、かつて同じ種類のきものでした。
――どういうことかと言えば、明治以降、欧米に倣って「黒」が礼装の色として推奨され、きものでも徐々に黒紋付が作られるようになりました。その黒紋付は、五つ紋の黒の無地で、慶弔ともに着られていました。それまで、喪服は白で、あらたまった場は襲の、黒、または色紋付でした。
明治維新に即した黒紋付が認知されるようになると、慶弔両用の便利もあり、広がりをみせてきました。
実際、〜大正時代、戦前・戦後すぐまでの婚礼の集合写真では、柄の入らない黒紋付の女性が必ずいました。
やがて、「おめでたい席は華やかなきもので」という考え方が、商業戦略も相まって広がっていき、結婚式の黒紋付は柄が入った、いわゆる「黒留袖」になり、慶弔で着られていた無地の黒紋付は「喪」専用のきものという位置づけになってしまったのです。
現在、一度も袖を通すことなく箪笥に眠っている”喪服”が山ほどあるでしょう。しかし、本来、黒紋付は”喪”専用ではなく、黒留袖と同じ種類の最高位の礼装です。宝塚歌劇団の修了式はいまも黒紋付に袴です。
現代で、いきなり結婚式に着るのはハードルが高いかもしれませんが、あらたまった席で帯を変えて着ることはまったく問題ありません。
今回のスタイル展は「色」もテーマの一つ。「黒」紋付の完成度の高さ、かっこよさを再認識し、”喪服”を本来の黒紋付として復帰させたいと考えて、本コーナーを企画しました。
礼装としての品位は保ちつつ、従来の画一的な着方ではなく、少し令和らしいアレンジがあってもいいのではないかーーという1つの試みとしてのコーディネートをご覧ください。
東京キモノショー キモノスタイル展
特別企画展 監修 細野美也子(月刊アレコレ)